直截の時間(募集中)

気ままに書きます。勉学(課題の超過)によって停滞する可能性あり、タイトルは募集中だし良いのがあれば変える。

プログレ伏魔殿、King Crimson〜①「宮殿クリムゾンとその後を追って」

King Crimson(以下「クリムゾン」)が11月に来る。

 

それを聞いて僕は猛烈に興奮している。「トリプルドラム」編成を前面に押し出し、非常に緻密かつ暴力的なアンサンブルを奏でる彼らは、半世紀に渡る長い活動の中で再び幾度目かの全盛期に突入しており、現存するベテランバンドの中だけでなく、21世紀に活動するあらゆるバンドの中でも随一の領域に達しているのだ。その証拠に、前回の2015年の来日では東京の4公演(オーチャードホール)を完売させ、追加公演も含めた全国10公演を大盛況のうちに締めくくっている。

 

ということで、周りの音楽仲間全員にその奇跡を自ら体感してほしいという想いの下、クリムゾンの布教を行っているのだが、中々上手くいかない。理由として、

 

①まずプログレというジャンルがなんだかんだで人口に膾炙していないということ

②彼らがストリーミングサービスに手を出していないということ

③活動歴が長すぎる上にメンバーも音楽性も雑多であり、実態を掴みづらいということ

 

などが考える。

 

とはいえ、彼らは往年のヒット曲をスローテンポ、キー下げで演奏する他の爺さんバンドとは全く違うのだ。ここまで熱心に推しているのも、単にクリムゾンのファンであるからだけでなく、60年代〜70年代のロックバンドが持っていた輝きを今でもリアルタイムに観れる最後の瞬間に立ち会える喜びを共有したいからであり、あの頃のロックを愛聴してきた身としては、ここで盛り上げないのは自分が愛してきたものへの不義理とさえ思っていたりもする。

 

ではどうやって紹介するか。ここで壁にぶち当たるのだ。

 

他のバンドなら代表曲ないし名作と言われるアルバムを2、3枚挙げたらいいのだろうが、彼らの場合はそうはいかない。先述した通り、メンバーも音楽性もコロコロ変わるので、ごく普通のバンド紹介をすると「さっきのアルバムと音楽性全然被ってない」、「1人しか同じメンバーいなくない?」と、この後何を聞けばいいのか、そもそもバンドメンバー誰だよ、と、初心者にはあまりにも不親切な放り投げ状態になってしまう。

 

それではと、日本版の公式サイトにあるバイオグラフィーを貼り付けてもいいのだが(これが結構面白かったりするのだが)、こちらは逆に「最初に聞くならどの時期が良いの?」、「どれが名盤なの?」といった、最初に知りたい情報はあまり分からない。

 

更に言ってしまうと、このバンドはコンセプト重視なところが結構あり、頭でっかちの「発想はいいんだけど...」というアルバムが結構ある。そういう訳で、適当に目に付いたものを聞くというのは博打である。嗚呼、なんと初心者泣かせのバンドなのか。

 

ということで、本記事はメンバーの入れ替わりや音楽性の変遷を通史(バイオグラフィー+アルバムレビュー)の形式で概説し、小ネタや「このアルバムの出来はぶっちゃけどうなの?」といった、クリムゾンに初めて足を踏み入れる人が読んで楽しめる要素を適宜差し込んでいこうと思う。

 

あまりにも長くなったため、数回の連載形式になってしまうが、この記事で1人でもクリムゾンに引きずり込むことに成功し、年末の来日で魂を奪われることになれば幸いである。

 

 

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LINEUP 1

 

しょっぱなからLINEUPなどという、メンバーチェンジなしのバンドを愛聴している方には不穏極まりないワードが登場しているが、Fripp曰く現在は「Formation 8.3」らしく、それまでに7種類のFormationがあったということである。この区分には曖昧な所もある(例えばバンドの公式ライブアーカイブサイトDGM.LIVEでは現在までを7つに区分しており、今が8番目の編成であることに矛盾が生じる)が、本連載では音楽性の変化が如実に出る区分を取りたいので、メンバーが加入した際(ゲスト扱いは不問)にLINEUPの数を改めるということにする(LINEUP 8に関しては出入りを繰り返しているメンバーがいるので、公式の通り小数点で調整する)。

…これだけで逃げたくなりそうな人もいるだろうが、ここまで来たのだから、せめてLINEUP1, 4, 5, ぐらいは見ていただきたい。いや、もう8だけでいい。

 

さて輝かしきデビュー時のメンバー紹介をしよう。

 

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左から右にIan McDonald, Michael Giles, Peter Sinfield, Greg Lake, Robert Fripp.

 

Robert Fripp(Gt, Key)

唯一今日に至るまでバンドに在籍しているリーダー格、もといレーベルDGMの社長。

メンバーチェンジの激しさは彼のせい。メンバーを一方的にクビにしたり、他のメンバーの了承なしにバンドを解散したり、ブート対策と称して何百枚というライブ盤を乱発したり、人間として難の多い人物だが、何万音もの連続フレーズを間違いなく弾き切るスキルの保有者であり、人間シーケンサーと化すライブ映像を見ると、クリムゾンが彼のワンマンバンドと化してもさもありなん、と納得してしまう。更には、スツールに座って弾く、スポットライトを自分だけ当てない、他のメンバーの音を遮蔽するブースに入って弾く、などと、ステージ上の姿を見るだけでも相当偏屈なのが良く分かるが、最近は人間性も含めて緩くなってきており、しっかりライトの当たる場所で弾くというごく当たり前のことをするだけでなく、仲直りした昔のメンバーを迎え入れたり、SNSで変顔を投稿したりとキャラがブレまくり。ライブ音源を乱発する一方で、たまに素晴らしいお宝音源を発掘してくるので、バンドの曲名からとって、「偉大なる詐欺師」と呼ばれたりもする。

 

Ian McDonald(Sax, Flute, Key, etc.)

デビューアルバムの音楽的主導者であり、バンドが成功したのは彼のおかげ。Frippの人間性に辟易としてすぐに脱退してしまったため、バンドは迷走するが、その後の音楽性の変遷を考えると、彼の脱退はバンドがより進化するための起爆剤だったのかもしれない。1974年にはアルバム「レッド」でゲスト参加し、正式メンバーとして復帰の案も出たが、バンドの解散によって流れる。その後、1997年にはデビューアルバムのメンバーが集まるイベントに出席していたため、Frippとの確執はそこまでではなかった模様(一説では「レッド」での再加入の流れに難色を示したのはFripp側だったとか)。02年から04年頃には初期のクリムゾン曲を演奏する21st Century Schizoid Bandで活動した。

 

Greg Lake(Bs, Vo)

Frippと同じ先生からギターを習っていたため交流が生まれ、バンドに加入。しかしデビューアルバムのツアー中に意気投合したKeith Emersonとバンドを結成するため脱退。そのバンドEL&Pはこのバンドより売れた(笑)。音楽面では、ベビーフェイスとは裏腹なジェントルボイスと、元がギタリストであるためかフレーズが明快なベースラインが特徴。年々肥えていき、ロック界隈広しといえども彼以上の巨漢はいないのでは、というぐらいの体型になり、末期ガンから2016年に死去。2000年頃にはリンゴスターのバックバンドでも活躍した。余命宣告後に自伝を書き上げているのでいつか読みたい。

 

Michael Giles(Dr)

元々弟のPeter Giles(Bs)とFrippの三人でGG&Fという前身バンドを組んでいたが、ベースも弾けるLakeの加入と共にPeterが脱退し、兄貴である彼だけが残った。ジャズの影響を感じさせる、軽やかであるが音数の多い緻密なプレイが特徴。過密なツアースケジュールにより脱退。1997年のイベントに顔を出していた。21st Century Schizoid Bandに所属。

 

Peter Sinfield(Lyric, Vision)

歌詞担当という異色のポジションのメンバーであったが、神話などのファンタジー要素と現代的モチーフを混在させた独特の世界観は、バンドのコンセプトに多大な貢献を果たした。ライブでは照明、PAなど裏方で活躍。Roxy Musicのプロデュース、イタリアのプログレバンドPFMの英詞担当、EL&Pの歌詞のサポートなど、プログレ界隈での活躍だけでなく、セリーヌディオンのヒットシングル「Think Twice」に歌詞を提供するなど、その活動は多岐にわたる。

 

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Michael Gilesの項にあるように、Giles兄弟+Frippの三人組バンドを前身とし、紆余曲折を経た後にこの編成に落ちつき、1968年にはリハーサルを開始し、後世に語り継がれるデビューアルバム「クリムゾンキングの宮殿」を制作し始める。

 

前身のバンド、GG&Fの曲。別に悪いわけではないのだが、コマーシャルな音楽性ではなく、このジャケットで売れるということはまずないだろう(笑)。

 

翌年にはライブ活動も精力的に行い、The Rolling Stonesのハイドパーク公演の前座に抜擢され、その名を知らしめていくことになる。

 

この当時の編成で唯一残っている映像がそのハイドパーク公演の1分半に渡る隠し撮り映像。メンバーも一部しか写っていないが、貴重なのは確か。

 

1st「クリムゾン・キングの宮殿」(1969年)

原題「In The Court Of The Crimson King」

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 ジャケットが非常に有名であり、一度ぐらいは見たことがあるのではないだろうか。

歴代ロックの名盤としてよく名前が挙がるだけあって、見た目倒しの作品ではない。

工場地帯を思わせる不穏なSE、唐突に静寂を切り裂いて提示されるヘヴィーなリフ、ディストーションのかけられたボーカル、単語を列挙した世紀末的な歌詞、スリリングなジャズパートと、インパクト抜群の「21世紀の精神異常者」から始まり、打って変わって牧歌的な「風に語りて」、プログレの代名詞であるメロトロンを大々的にフィーチャーした歌謡曲「エピタフ」、尺稼ぎと後に認めた(笑)インプロの「ムーンチャイルド」、そして荘厳な表題曲と、今までにない新しいロックサウンドを提示した最重要作品であり、今聞いてもその斬新性が失われることはない。「アビーロードをチャート首位から蹴落とした」という都市伝説があるが、恐らくはガセ、というところまでがロック親父のテンプレ紹介なので、「ビーt」と言いだした時点で「既に知っている」という顔をしよう。

 

「風に語りて」。Ian McDonaldのフルートが瑞々しく、大変美しい佳曲である。

 

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その後、前述の通り、メンバー5人中3人が脱退を表明するという危機に見舞われつつも、Frippはバンド存続のために2ndアルバムの制作を断行する。

 

2nd「ポセイドンのめざめ」(1970年)

原題「In The Wake Of Poseidon

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さて、残りは作詞メンバーと自分しかいない状況において、Frippはいかなる手段を用いてこのアルバムを作ったか。答えは単純明快で「脱退すると言ったメンバーに頼みこむ」である。結果、Frippに嫌気がさして脱退したIan McDonald以外の2人と、更には既に脱退していたPeter Gilesが(Greg Lakeがベースを録る時間を確保できなかったため)彼の説得に同意し、録音だけは行うことを許可した。

その結果できたアルバムはというと、身も蓋もない物言いをすると、1作目の二匹目のドジョウであり、前作とそっくりな曲が複数露見され、Frippの作曲センスが疑われる残念な出来となっているのは間違いない。

ただし、ギターとボーカルの美しいメロディーが光る小曲、「平和(2015年の来日では日本語で披露された)」や、アヴァンギャルドなフリージャズパートが後半に待ち構える「デヴィルズ・トライアングル」(元はライブでも披露していたホルストの「火星」のカバーであったが、遺族から許可が降りなかった)、そしてIan McDonaldの置き土産であるフリージャズとポップスの融合作品、「キャット・フード」など、新機軸があったのは確かであり、3rdアルバムのメンバーもこの作品からゲスト的な立ち位置で既に参加しており(彼らの紹介は次回記事に持ち越させていただく)、今後の伏線的作品になっているのは間違いない。ただし、最初にこのアルバムを聴くのは全くもってオススメできない。ちなみにタイトルは誤訳。

 

youtu.be

埋め込みができなかったため、リンクの貼り付けにしているが、なんとこの編成でも(アテ振りとはいえ)映像が現存している。このアヴァンなピアノを弾き倒しているのは、Frippに再三メンバーとしてのオファーを受けながらも、あくまでゲストの座に留まったジャズピアニスト、Keith Tippettである。

 

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今後も年末の来日に向け、少しでもファンが増えたらという思いで、率直かつ興味を湧かせられるような記事を書いていく次第である。今回と最終回だけでも読んでくれたら嬉しい。