直截の時間(募集中)

気ままに書きます。勉学(課題の超過)によって停滞する可能性あり、タイトルは募集中だし良いのがあれば変える。

Opus(not playing the piano 2022) 所感

暗闇に舞う粒子(身も蓋もないが、多分スタジオに舞う埃)。鳴る足音。その後にスクリーンいっぱいに映る背中、刈り上げた後頭部。

 

一曲かけて少しずつズームしながらも上昇し、鍵盤を鳥瞰する長回しに、コンサート映像ではなく映画の中でコンサートをしているのだと思う。

 

輪廻転生がテーマのゲーム主題曲「Lack of Love」、ベルトルッチへの追悼「BB」、タルコフスキーオマージュの「Andata」(本人は『async』に作者の臨死体験を見出されたくないと言っていたが、タルコフスキーに死の臭いは避けられない)、ヨハン・ヨハンソン?あるいはバッハ(もしくは両者)に捧げられた「for Johann」、遺された人の孤独を描く『トニー滝谷』の主題曲「Solitude」。やたらと死を匂わせる曲目に、極端なまでに削ぎ落とされた勢いと、明かりを限界までに絞られた空間に鳴り響くペダル音と『12』でもお馴染み鼻息。

 

「Andata」の最後の1音のドスが光る。「Solitude」は思いの外パーカッシブ。

 

片手で弾きながら片手で指揮を取る。

 

マイクの雑木林に取り残される坂本龍一

 

長回しが心地良い。

 

中盤になるとスタジオは明るくなる。コンサート全体で一日の流れを表現しているらしく、曲目も明るく、笑顔やおどけた顔も見える。

「美貌の青空」でのハプニングは前情報で知っていたが、思い出すまでたどたどしく音を探してはそのまま再開、完奏後の「もう一回」からの暗転で次のテイクは流されない。

 

「Aqua」で泣くと思ったが泣かなかった。転調でピアノの鳴りが一気に変わるのが良い。

 

アレンジに自画自賛していた「Tong Poo」では本人も演奏中にニヤケ顔が止まらず。弱めの低音をぼやけさせ、際立つ主旋律が瑞々しい。勢いがなくとも若々しい音になるこの解釈は確かに凄い。

 

「The Sheltering Sky」「The Last Emperor」の低音は流石に迫力があり、アレンジがただ体力の低下に合わせたものではないことが分かる。

 

代表曲の後にプリペアド・ピアノでの実験曲やアルヴァ・ノトとの共作「Trioon」を弾くなど、これまでのplaying the pianoの中でも最もコアな曲目が並ぶ。

 

それだけに戦メリが意外と悪目立ちせずに鳴っていたことが面白い。教授が一時はコンサートで弾くのをやめていたこの代表曲は、自己主張が強すぎて自分もアルバムで再生を飛ばしたりしていたが、この流れでこの音や旋律が鳴ることは、正しい。

むしろ前曲「Happy End」からのカットなしで唐突に始まる緩急のなさは、作品全体でもとりわけ際立つ。地味な方向に。

 

配信では「Opus」を弾き終わった後、坂本龍一が立ち上がって歩き去るのを斜め上から捉えて終わりだったが、映画では映像が無人演奏にすり替わり、果たしてどこまでが本人の演奏だったかと意地悪な疑問を抱かせ、終わる。

 

初見時の印象では、朽ちていく身体に鞭を打ち、沈み込むように鍵盤に知性の音を埋め込んだ演奏、というものであったが、再見すると、全体的に思いの外お茶目で、割と遊びのある作品だった。そもそも選曲が生前葬らしさとそれ以外との高低差が大きい。今までのplaying the pianoと全く質感が異なるものだったと言える。芸術家の晩年の作風全般に言える幽玄さや晦渋さが端的に示された演奏、と表すのは簡単だが、もっと淡々とした、できる新しいことと向き合う、そんなスリムな感触。

 

週末の夜だというのに、ガラガラのドルビーアトムスを後にし、どこか軽やかな気持ちで家路に着いた。

 

音源がほしい。